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「愚者の旅」とは? タロットの大アルカナ22枚をひとつの物語として読む

執筆者の写真: 保戸砥 和
保戸砥 和
9月8日
読了時間: 11分

「愚者の旅」という言葉を聞いたことはありますか?

タロットの大アルカナは、「愚者」から始まり、「魔術師」「女教皇」「女帝」「皇帝」と続き、最後の「世界」まで22枚あります。

この22枚を一枚ずつ独立したカードとして見るのではなく、愚者というひとりの旅人が、さまざまな経験をしながら成長していく物語として読む方法があります。

それが、「愚者の旅(The Fool's Journey)」です。

愚者は旅の途中で、人と出会い、社会を知り、選択し、前へ進みます。

立ち止まることもあれば、思いどおりにならない出来事に遭遇することもあります。

そして最後には「世界」へとたどり着きます。

こうして大アルカナを順番に眺めてみると、一枚一枚では気づかなかったカード同士のつながりが見えてきます。

ただし、この「愚者の旅」。

実は、タロットが生まれたときから存在していた物語ではありません。

「愚者の旅」は、昔から伝わるタロットの物語?

現在では、大アルカナを学ぶ方法として広く知られている「愚者の旅」ですが、15世紀ごろにタロットカードが登場した当初から、この物語が伝えられていたわけではありません。

「Fool's Journey」という言葉をタロットの大アルカナに用いたことで知られているのが、アメリカのタロット著者エデン・グレイです。

1970年に出版された『A Complete Guide to the Tarot』では、エピローグに「The Fool's Journey」という題がつけられました。

グレイはその10年前、1960年の『Tarot Revealed』ですでに、愚者が残り21枚に象徴される経験を通過していく、という考え方を示していました。

タロット研究家のMary K. Greerは、こうした発想にはA.E.ウェイトによる、それ以前の「魂の歩み」に関する解釈の影響も考えられるとしています。

実際、ウェイト自身も『The Pictorial Key to the Tarot』の中で、愚者を「経験を求める精神」や、この世界を旅する存在として描写しています。

ただしウェイトが、現在「愚者の旅」と呼ばれているような、大アルカナ22枚をひとつにつないだ物語を示したわけではありません。

つまり、「愚者の旅」は大アルカナに最初から決められていた公式ストーリーというより、カードをひとつの人生の物語として読み解いていく、後世に発展した解釈のひとつと考えるほうがよさそうです。

では、その物語を実際にたどってみましょう。

0 愚者|まだ何者でもない旅人

物語の主人公は「愚者」です。

ウェイト=スミス版では、若者が小さな荷物を持ち、崖のそばを歩いています。

足元には犬。顔は空へ向けられ、その先に何が待っているのかはまだわかりません。

愚者の番号は「0」。

まだ何者にもなっていないからこそ、どこへでも行くことができます。

ここから長い旅が始まります。

I 魔術師|自分には何ができるのか

最初に出会うのは「魔術師」です。

魔術師のテーブルには、ワンド、カップ、ソード、ペンタクルというタロットの4つのスートを象徴する道具が並んでいます。

愚者はここで、自分にも何かを始めるための力や手段があることに気づきます。

旅に出ただけだった愚者が、初めて「自分から何かをする」という力に触れる場面として見ることができます。

II 女教皇|外の世界だけが答えではない

次に現れるのは「女教皇」。

魔術師が外へ働きかける力だとすれば、女教皇から見えてくるのは、静かに内側へ向かう世界です。

すぐに答えを出すのではなく、感じること、考えること、まだ見えていないものに耳を澄ませること。

愚者は、行動するだけでは知ることのできない世界に出会います。

III 女帝|育てることを知る

女帝の世界には、豊かさや実りがあります。

何かを生み、育て、受け取る。

愚者はここで、自分ひとりの力だけではなく、生命が育っていくことや、世界から与えられる豊かさを経験します。

IV 皇帝|世界には秩序がある

自由に旅をしてきた愚者の前に、今度は「皇帝」が現れます。

皇帝が象徴するのは、秩序や構造、責任といったもの。

好きなように動くだけでは、社会の中では生きていけません。

愚者はここで、自分を支える枠組みや、物事を形にして維持していく力と出会います。

V 教皇|受け継がれてきたものを学ぶ

教皇の前には、人々が集まっています。

ここで愚者が出会うのは、自分ひとりで発見したものではなく、社会や文化の中で受け継がれてきた価値観や知識です。

誰かから教わること。

すでにある考え方を知ること。

愚者の世界は、自分だけのものから少しずつ広がっていきます。

VI 恋人|自分で選ぶ

「恋人」という名前から恋愛のカードとして知られていますが、このカードには選択というテーマも重ねて読むことができます。

人と関わり、自分とは違う存在と向き合う中で、「自分は何を大切にするのか」という問いが生まれます。

ここから愚者は、教えられた価値観だけではなく、自分自身で選び始めます。

VII 戦車|自分の力で前へ進む

戦車に乗った人物は、いよいよ自分の意思で世界へ進んでいきます。

ここまで愚者は、さまざまな人や価値観と出会ってきました。

今度は、それらを抱えながら自分で進む番です。

目的を持ち、自分の力で人生を動かしていく。

旅人だった愚者が、少しずつ自分の人生の運転手になっていきます。

VIII 力|強さとは何だろう

「力」には、女性と獅子が描かれています。

ここで描かれる強さは、力ずくで相手を押さえつけるものとは少し違います。

自分の中にある衝動や恐れとどう付き合うのか。

外へ向かって進んできた愚者は、自分自身を扱う力を学んでいきます。

IX 隠者|ひとりになって考える

そして愚者は、いったん人々から離れます。

隠者が手にしているのはランタンです。

誰かから答えを教えてもらうのではなく、自分自身で光を探す時間。

これまで経験してきたことを振り返り、「自分はどこへ向かっているのか」を考える段階です。

X 運命の輪|自分では動かせないものに出会う

ところが、人生は自分の意思だけでは進みません。

運命の輪が回ります。

環境が変わることもあれば、予想していなかった出来事が起こることもあります。

ここで愚者は、自分で選び、自分で進むこととは別に、自分では完全にはコントロールできない変化が存在することを知ります。

XI 正義|自分の選択と向き合う

何を選び、どう行動したのか。

その結果として何が起きたのか。

正義は、物事を感情だけで見るのではなく、釣り合いや因果、判断という視点を持ち込みます。

愚者は、自分の選択には結果が伴うことと向き合います。

XII 吊るされた男|進めない時間にも意味がある

ここで旅は止まります。

吊るされた男は、逆さまになったまま動きません。

前へ進むことができない。

けれど、いつもとは違う方向から世界を見ることはできます。

行動することだけが旅ではありません。

立ち止まったからこそ、それまでとは違うものが見えることもあります。

ここから先も、ウェイト自身が示した物語というわけではなく、後世の「愚者の旅」という読み方に沿って、カードの流れをたどっていきます。

XIII 死神|終わらなければ、次へ進めない

「死神」は、初めて見ると怖く感じるカードかもしれません。

しかしタロットでは、必ずしも文字どおりの死を意味するわけではありません。

何かが終わること。

これまでの形を手放すこと。

愚者はここで、大きな変化を経験します。

旅を続けるためには、ずっと同じ自分ではいられません。

XIV 節制|新しい自分をつくっていく

死神によって何かを手放したあと、節制が現れます。

天使は二つのカップの間で水を移しています。

異なるものを混ぜ合わせ、調整し、新しいバランスをつくる。

愚者は、これまで経験してきたものを少しずつ自分の中で統合していきます。

XV 悪魔|自分を縛っているものを見る

しかし、旅はきれいに進んでいくわけではありません。

「悪魔」では、人々が鎖につながれています。

欲望、執着、恐れ、思い込み。

自分では自由に選んでいるつもりでも、実は何かに縛られていることがあります。

愚者は、自分の中にある見たくなかった部分とも向き合うことになります。

XVI 塔|積み上げてきたものが崩れる

そして塔に雷が落ちます。

ここまで正しいと思っていたこと。

安全だと思っていた場所。

自分を支えていた考え。

それらが突然崩れることがあります。

愚者の旅の中でも、特に大きな転換点として読むことのできるカードです。

XVII 星|それでも、空には星がある

塔の次に現れるのが「星」です。

激しい崩壊のあと、カードの風景は一転して静かになります。

何かを失ったあとでも、もう一度未来を見ることができる。

愚者はここで、希望や、自分が向かいたい方向を少しずつ取り戻していきます。

XVIII 月|見えない道を歩く

ところが、星を見つけたからといって、すべてが明確になるわけではありません。

月明かりの下では、ものの形がはっきり見えません。

不安、曖昧さ、想像。

何が本当なのかわからないまま進まなければならない時間もあります。

愚者は、自分の内側にある不確かな世界を通っていきます。

XIX 太陽|世界が明るく見えてくる

月の夜を抜けると、太陽が現れます。

ここでは、隠れていたものが光の中に現れます。

喜びや生命力、明快さ。

長い旅を続けてきた愚者は、世界をより素直に受け取ることのできる場所へたどり着きます。

XX 審判|これまでの旅に応える

審判では、呼びかけを受けた人々が立ち上がっています。

愚者が経験してきたことは、ここでひとつにつながっていきます。

過去を振り返りながら、自分はこれからどう生きるのか。

旅の終わりを前に、愚者はもう一度、自分自身に問いかけます。

XXI 世界|ひとつの旅が完成する

最後にたどり着くのが「世界」です。

22枚をひとつの物語として読むなら、ここは愚者がさまざまな経験を経て、ひとつの旅を完成させる場所です。

けれど、「世界」に着いたからといって、人生そのものが終わるわけではありません。

何かをやり遂げれば、また新しいことが始まります。

新しい環境に入れば、そこで私たちは再び「何も知らない人」になります。

そう考えると、「世界」の先には、また「0 愚者」が待っているとも読むことができます。

旅は一直線ではなく、何度も形を変えながら続いていくのです。

「愚者の旅」を知ると、カードの見え方が変わる

タロットを覚え始めたころは、一枚ずつ意味を暗記したくなるかもしれません。

魔術師は「始まり」。

隠者は「内省」。

塔は「崩壊」。

星は「希望」。

もちろん、こうしたキーワードはカードを理解する助けになります。

でも、大アルカナを順番に並べてみると、

なぜ塔のあとに星があるのか。

なぜ死神のあとに節制があるのか。

なぜ世界の前に審判があるのか。

という別の見方が生まれます。

これは「もともとその意味を持たせるために、この順番に並べられた」ということではありません。

カードの並びをひとつの流れとして眺め、そこに物語を見つけていく――それも「愚者の旅」の楽しみ方のひとつです。

カード同士の間に流れが見えてくると、一枚の意味も少し立体的に感じられるようになります。

「愚者の旅」は、タロットに最初から書かれていた唯一の正解ではありません。

けれど、大アルカナ22枚をバラバラの意味として覚えるのではなく、ひとりの人間が世界と出会い、経験し、変化していく物語として眺めてみる。

そんな読み方をすると、タロットの絵の中に、これまでとは少し違う景色が見えてくるかもしれません。

22枚をひとつの流れとして眺めてみる

ここまで、大アルカナ22枚を「愚者の旅」というひとつの物語としてたどってきました。

一枚ずつ見ていると、それぞれのカードには異なる人物や出来事が描かれています。しかし、22枚を少し離れたところから眺めてみると、そこにはいくつかの大きな節目が見えてきます。

ここでは、その流れを大きく4つの段階に分けて眺めてみましょう。

旅のはじまりでは、愚者はまだ何者でもない存在として世界へ踏み出し、さまざまな人物や価値観と出会いながら、自分の力で進むことを覚えていきます。

やがて旅は、外の世界を知る段階から、自分自身の内側へと向かっていきます。強さとは何かを知り、立ち止まって物事を見つめ直し、変化を受け入れながら、自分なりのバランスを探していきます。

さらにその先では、それまで築いてきたものが揺らぎ、ときには手放さなければならない場面も訪れます。しかし、そうした経験を通して視野は広がり、愚者は以前とは違う自分として、新しい世界へ向かっていきます。

そして最後の「世界」で、ひとつの旅は完成します。

けれども、それですべてが終わるわけではありません。ひとつの経験が完結すれば、そこからまた新しい経験が始まります。

こうして22枚を大きな流れとして眺めてみると、「愚者の旅」は、世界と出会い、自分自身と向き合い、変化を越え、ひとつの経験を完成させ、再び次の旅へ向かう物語として見ることができます。



そして、また新しい旅へ

「世界」でひとつの旅が完成しても、そこで物語のすべてが終わるわけではありません。ひとつの経験を終えれば、また新しい出来事や出会いが待っています。

「愚者の旅」は、大アルカナ22枚の意味を順番に覚えるためだけのものではありません。カード同士をつなげて眺めることで、迷うことも、立ち止まることも、何かを終えてまた始めることも、ひとつの長い旅の一部として見ることができます。

大アルカナを手に取るときには、一枚だけを見るのではなく、そのカードの前にはどんな経験があり、この先にはどんな景色が待っているのかも想像してみてください。


22枚のカードが、これまでとは少し違った物語として見えてくるかもしれません。

参考文献・参考資料

A. E. Waite, The Pictorial Key to the Tarot, William Rider & Son, 1910/1911.

Eden Gray, Tarot Revealed: A Modern Guide to Reading the Tarot Cards, 1960.

Eden Gray, A Complete Guide to the Tarot, Crown Publishers, 1970.

Mary K. Greer, “Eden Gray's Fool's Journey,” 2008.(ブログ記事)

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