インド占星術
1.イン ド占星術とは
インド占星術は、インドで長い歴史を持つ占星術の体系です。「ジョーティッシュ(Jyotisha/Jyotiṣa)」とも呼ばれています。
生まれた日時と場所からホロスコープを作り、その人の性質や人生のさまざまなテーマ、時期の流れなどを読み解いていきます。
西洋占星術と同じように、太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星などの天体や、12の星座、12のハウスを使います。
一方で、ラーフとケートゥと呼ばれる月の交点、ナクシャトラ、ダシャー、分割図など、インド占星術で重要な役割を持つ独自の要素や技法も数多くあります。
また、インド占星術には、生まれたときのホロスコープを読むだけではなく、質問をした時刻から答えを考えたり、物事を始める日時を選んだりする方法もあります。
ひとことで「インド占星術」といっても、その中にはさまざまな占い方があります。
2.インド占星術はどのように発展した?
インドには古くから、太陽や月、星の動きを観察し、暦や祭祀の時期を定めるための天文学的な知識がありました。
その古い伝統を伝える文献のひとつが『ヴェーダーンガ・ジョーティシャ(Vedāṅga Jyotiṣa)』です。
この文献がいつ成立したのかについては研究者の間でも見解が分かれており、非常に古い年代を想定する説もあれば、紀元前5~4世紀ごろとする説もあります。
ここで大切なのは、この時代のジョーティシャを、そのまま現在のインド占星術と同じものとして考えないことです。
初期のジョーティシャでは、暦を作り、祭祀を適切な時期に行うための天体観測や時間の計算が重要な役割を持っていました。現在のインド占星術にも使われるナクシャトラと呼ばれる星宿の考え方も、こうした古い天文・暦の伝統の中に見ることができます。
その後、インドでは外部の天文学や占星術との交流も起こります。
特に紀元後の初期には、ギリシャ系の占星術の要素を取り入れた文献が現れます。その代表として研究されているのが『ヤヴァナジャータカ(Yavanajātaka)』です。
現在の研究では、その成立年代や伝承の過程には議論が残っていますが、インドのジョーティシャが独立したひとつの 時代に完成したのではなく、古くからのインドの天文・暦の伝統に、外部から伝わった知識も取り入れながら発展していったことがわかります。
6世紀にはヴァラーハミヒラなどの著作が現れ、その後も多くの文献や流派、技法が積み重ねられながら、現在につながるインド占星術の体系が形成されていきました。
3.「ジョーティッシュ」とは?
インド占星術を調べていると、「ジョーティッシュ」という言葉をよく目にします。
現在ではインド占星術そのものを指す言葉として使われることも多いのですが、歴史的なジョーティシャは、現在私たちが「占い」と呼ぶものだけを意味していたわけではありません。
古典的な分類では、天体 の位置や暦などを計算する分野、個人の出生図などを扱う分野、天候や社会的な現象などを扱う分野といった、大きな領域がありました。
6世紀のヴァラーハミヒラの『ブリハット・サンヒター』では、ジョーティシャを大きく、天文学・計算を扱うガニタ、出生時のホロスコープなどを扱うホーラー、自然現象や社会的事象などを扱うサンヒターという三つの領域に分ける考え方が示されています。
現在一般に「インド占星術」として知られているものは、この大きな伝統の中でも、特に人や出来事を読み解く占星術の領域です。
4.西洋占星術とは何が違う?
西洋占星術とインド占星術は、どちらも太陽や月、惑星、12星座、12ハウスなどを使い ます。
ところが、同じ生年月日のホロスコープを作っても、天体が入る星座が違うことがあります。
現在一般的な西洋占星術では、春分点を牡羊座0度とするトロピカル方式(回帰黄道)が広く使われています。
一方、インド占星術では、恒星を基準とするサイデリアル方式(恒星黄道)が主に使われます。
この二つの方式には基準の違いがあるため、西洋占星術では牡羊座にある太陽が、インド占星術では魚座に位置するといったこともあります。
また、インド占星術では月が非常に重視され、月がどのナクシャトラに位置しているかが、時期を判断するダシャーなどにも関係します。
同じ空の天体を扱っていても、使う基準や技法、重視するポイントには違いがあります。
5.インド占星術のホロスコープ
インド占星術でも、生まれた瞬間の天体配置を表した出生図を使います。
出生した時刻と場所から、その瞬間に東の地平線から昇っていた星座である「ラグナ(アセンダント)」を求めます。
ラグナは第1ハウスの基準となり、そこから12のハウスを見ていきます。
ホロスコープには、太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星に加え、「ラーフ」と「ケートゥ」も表示されます。
ラーフとケートゥは、太陽や月のような物理的な天体ではありません。
月の軌道と太陽の見かけの通り道である黄道が交わる二つの点で、西洋占星術でいうドラゴンヘッド(ノースノード)とドラゴンテイル(サウスノード)にあたります。
インド占星術では、この二つの点も重要な要素として読み解いていきます。
四角いホロスコープ?
インド占星術のホロスコープは、西洋占星術でよく見かける円形のホロスコープとは、見た目も大きく異なります。
一般的には、四角形の中を12の区画に分けた図が使われます。
代表的なものに「北インド式」と「南インド式」があり、同じ天体配置を表していても、星座やハウスを図の中に配置する方法が異なります。
南インド式では、12星座の位置がチャート上に固定されています。どの星座がラグナになるかによって第1ハウスが決まり、そこから順に各ハウスを見ていきます。
一方、北インド式ではハウスの位置が固定され、そこにどの星座が入っているのかを表します。
そのため、同じ人の出生図でも、北インド式と南インド式では一見するとまったく違う図のように見えます。しかし、図の表し方が違うだけで、示している天体配置そのものが変わるわけではありません。
このほかにも地域によって異なる形式があります。
HOCA WORKSでは、インド占星術のホロスコープを表示する際、主に南インド式を使用します。
6.27のナクシャトラ
インド占星術の特徴のひとつが「ナク シャトラ」です。
12星座とは別に、黄道を27の領域に分け、それぞれに名前や支配星などが割り当てられています。現在一般的な27ナクシャトラでは、一つの領域は13度20分です。
たとえばアシュヴィニー、バラニー、クリッティカー、ローヒニーなどがあり、月がどのナクシャトラに位置していたのかも、出生図を読むうえで重要になります。
さらに一つのナクシャトラは4つの「パダ」に分けられます。
同じ星座に月を持つ人でも、ナクシャトラやパダが違えば、インド占星術ではさらに細かく違いを見ていくことができます。
ナクシャトラは性質を読むためだけではなく、ダシャーと呼ばれる時期判断にも使われます。
7.人生の時期を見る「ダシャー」
インド占星術には、人生の時期を読み解くための「ダシャー」という技法があります。
ダシャーには複数の方式がありますが、現在広く使われているもののひとつが「ヴィムショッタリ・ダシャー」です。
ヴィムショッタリ・ダシャーでは、出生時の月が位置していたナクシャトラをもとに、人生の中でどの惑星の期間が巡ってくるのかを計算します。大きな期間はさらに小さな期間へと分けて見ることができます。
そのためインド占星術では、出生図から「どのような性質やテーマを持っているのか」を見るだけでなく、「そのテーマがいつ表れやすいのか」という時間の流れも重ねて考えることができます。
さらに、現在空を動いている惑星を見る「ゴーチャラ(トランジット)」なども組み合わせながら、時期を読み解いていきます。
8.ひとつの出生 図から、さらに別のチャートを作る
インド占星術には「ヴァルガ」と呼ばれる分割図があります。
出生図の星座を一定の方法でさらに細かく分割し、別のチャートとして表したものです。
よく知られているものに「ナヴァーンシャ(D9)」があります。このほかにもD10など、さまざまな分割図があります。
出生図だけを見るのではなく、テーマに応じた分割図もあわせて確認することで、ひとつのホロスコープをさらに細かく検討していきます。
そのためインド占星術の鑑定では、一人について複数のチャートを使うこともあります。
9.インド占星術とカルマ・輪廻転生
インド占星術を理解するとき、その背景にあるインドの思想や文化も切り離すことはできません。
そのひとつが、カルマ(行為)や輪廻(サンサーラ)という考え方です。
インド思想では古くから、生と死を一度きりのものとしてではなく、生まれ変わりを繰り返す輪廻という大きな流れの中で捉える考え方が発達しました。
また「カルマ」は、本来「行為」を意味する言葉です。行為には結果が伴い、それが現在や未来の生にも関わるという考え方が、インドのさまざまな思想や宗教の中で発展してきました。
こうした世界観を背景として、インド占星術では出生図を、その人が生まれた時点で持っているさまざまな条件や、人生で経験しやすいテーマを読み解くものとして捉える考え方があります。
そのため、インド占星術ではカルマや過去世という言葉が使われることもあります。
ただし、「ホロスコープを見れば前世の出来事がすべてわかる」という意味ではありません。
また、カルマや輪廻転生はインドの宗教・思想に根ざした考え方であり、占星術によって科学的に証明されたものではありません。
HOCA WORKSでは、こうした背景も含めてインド占星術の考え方を紹介しながら、ホロスコープを人生のさまざまなテーマやパターンを考えるためのひとつの視点として扱います。
10.インド占星術と9つのグラハ
インド占星術では、太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星、ラーフ、ケートゥの9つを「ナヴァグラハ」として扱います。
ここでいう「グラハ」は、現代天文学でいう惑星とまったく同じ分類ではありません。
太陽と月が含まれ、物理的な天体ではないラーフとケートゥも含まれています。
インドの文化では、これらのグラハは単なる天体の記号としてだけではなく、それぞれ神格として表現されてきました。
たとえば太陽はスーリヤ、月はチャンドラ、土星はシャニなどの名で神話にも登場します。ラーフとケートゥについても、インド神話の中にその由来を語る物語があります。
インド占星術の惑星には、天文学的な天体としての側面だけでなく、こうした神話や宗教文化の中で育まれてきた象徴的な側面もあります。
11.インド占星術にはどんな占い方がある?
インド占星術は、生年月日から性格や人生を読む方法だけではありません。
長い歴史の中で、目的に応じたさまざまな方法が発展してきました。
出生図を読む「ジャータカ」
生まれた日時と場所からホロスコープを作り、その人の性質や人生のさまざまなテーマを読み解きます。
ラグナ、惑星、ハウス、星座、ナクシャトラ、ヨーガ、分割図など、多 くの要素を組み合わせて判断します。
質問した時刻から読む「プラシュナ」
出生時刻ではなく、質問が生まれた時刻などをもとにホロスコープを作り、特定の質問について判断する方法です。
そのため、出生時刻がわからない場合でも使うことができます。
日時を選ぶ「ムフールタ」
結婚、開業、旅行など、何かを始める際に適した日時を選ぶための方法です。
「いつ起こるのか」を読むだけではなく、こちらから「いつ行うのか」を選ぶ占星術もあるということです。
二人の関係を見る方法
結婚やパートナーシップなど、二人の関係を見るための方法もあります。
出 生図同士を比較する方法のほか、ナクシャトラを使った伝統的な適合判断などもあります。
社会や自然現象を見る占星術
ジョーティシャには、個人だけではなく、国家や社会、天候、自然現象などを扱ってきた領域もあります。古典的なジョーティシャの「サンヒター」と呼ばれる分野には、降雨や社会の盛衰、彗星や流星など、非常に幅広いテーマが含まれていました。
このように、インド占星術は「生年月日から自分の性格を知る」だけのものではなく、さまざまな目的に応じた方法を持つ大きな体系です。
12.インド占星術で読み解けること
出生図では、その人が生まれたときの天体配置をもとに、性質、仕事、結婚やパートナーシップ、家族、財、学びなど、人生のさまざまな領域を見ていきます。
さらにダシャーやゴーチャラを重ねることで、人生を一枚の固定されたホロスコープとして見るだけではなく、時間の流れの中で考えることができます。
ただし、同じ惑星やハウスがあれば、すべての人に同じ出来事が起こるというものではありません。
惑星がどの星座やハウスにあり、どの惑星と関係し、どの時期が巡っているのかなど、複数の要素を組み合わせて判断していきます。
HOCA WORKSでは、インド占星術を未来を決めつけるためのものではなく、自分の性質や人生に現れやすいテーマ、繰り返しやすいパターン、現在の時期などを整理し、人生を別の角度から眺めるための方法として扱います。
13.インド占星術をもう少し知りたい方へ
ナクシャトラ、ダシャー、ラーフとケートゥ、分割図、ヨーガなど、インド占星術にはここだけでは紹介しきれない多くの考え方や技法があります。
それぞれの仕組みや考え方について、コラムで少しずつ紹介していきます。
14.自分のホロスコープを知る
HOCA WORKSでは、インド占星術のホロスコープや人生のテーマを読み解くためのWebツール、鑑定サービスなども順次公開していく予定です。
→ インド占星術のツール(予定)
→ 鑑定(予定)
参考文献・参考資料
本ページのインド占星術の歴史や天文学に関する記述では、古代・中世インドの天文学、ジョーティシャ、ギリシャ系占星術との交流などに関する研究資料を参照しています。
Kim Plofker, Mathematics in India, Princeton University Press, 2009.
David Pingree, Jyotiḥśāstra: Astral and Mathematical Literature, Otto Harrassowitz, 1981.
Bill M. Mak, “The Transmission of Greek Astral Science into India Reconsidered,” History of Science in South Asia.
Varāhamihira, Bṛhat Saṃhitā.